前回で分数
b/a を定義することは,方程式
ax=b の解
x=b/a として分数が定まると逆思考で考えた。ところが,
a=0 の時,
b がゼロでなければ方程式が解けないから,
b がゼロでなければ分数
b/0 が定義できない。そこで,方程式
ax=b に近いもので,何時でも唯一つの解を有するようには考えられないだろうか。
ここで,もう1段の発想の転換が必要である。方程式
ax=b の解とは,
(ax–b)2 を最小にする
xの値であると言い換えられる。(ここで,2乗する意味は結構深く,差の2乗を考えるのは2つの量の遠さ,近さを比較するのに便利である事による―ここにも神は2を愛し給う,志が出ていると言える。これに関して,ピタゴラスの定理を思い出すのは良いだろう。)
そこで,
(ax–b)2に近い式として,小さな正の数
s をとって,式
sx2+(ax−b)2を考える。(
s を
10−400 位に小さくとれば,加えた項は,無視できるほどではないだろうか?実際,現代ではそれくらい小さな数を計算機内でも扱える。実際,京都大学の藤原宏志氏は,それよりはるかに小さな数を計算機内で扱っている。)この時,これは2次関数であるから,放物線の谷の頂点,すなわち,
x=ab/(s+a2) で最小値をとることが分る。
s=0 のとき,
(ax–b)2 を最小にする
x が分数
b/a であるから,
(ax–b)2 に近い式
sx2+(ax−b)2 を最小にする
x=ab/(s+a2) は定義したい一般化した分数と言えるだろう。ところが,今の場合,
a=0 の場合にも最小にする
x は唯一つに
x=0 と定まっている。
sx2 の項のために何時でも最小にする
x が唯一つに定まる。
ここが微妙なところであるが,
x=ab/(s+a2) で
s に依存する一般化分数を定義し,
s をゼロに近づけた極限値で,(
sには依らない)一般化分数を定義するのが自然であると考えられよう。この意味で,定義された分数を従来どうり,
b/a で表せば,
a がゼロでない場合,定義は,従来どうりであるが,
a=0 の場合にも定義されて,
b/0=0 であるという結論に達する。形式不変の原理,すなわち,拡張を考えるときは,従来の結果はそのまま成り立つように拡張して行かなければならない。―でたらめな拡張であってはならない。
ここで重要なことは,ゼロ除算
b/0 のこの定義は,もはやもともとの意味での割り算としての意味を失い,割り算の自然な拡張として得られたと言うことである。その意味で,極めて微妙なものである。(この意味でゼロ除算
b/0=0 は記号
b/0 を用いるべきでないという意見が出るが,世に
b/0 の正当な意味を与えたものは無いと考えられるので,新しい記号は不要であると論文で述べた。しかしながら,複素解析学では
b/0 に無限遠点を対応させている。そこで,無限遠点は数ではないのでないかと,その矛盾を世に問うている。)
今回は,極めて,微妙でいろいろ示唆に富んだ発想で,しかも微妙なゼロ除算
b/0=0 を得た。分数
b/a を
a=0 の場合にも自然に拡張すると
b/0=0 であることが,証明された。さらに,非常に一般的にどのような拡張を考えてもこの結果に限られることが,山形大学名誉教授高橋眞映氏によって証明された。ここまでの結果が,高校レベルの数学で,完全な証明と簡単な表現が与えられているが,原論文を参照:
M. Kuroda, H. Michiwaki, S. Saitoh, and M. Yamane,
New meanings of the division by zero and interpretations on
100/0=0 and on
0/0=0,Int. J. Appl. Math. Vol. 27, No 2
2014, pp. 191-198, DOI: 10.12732/ijam.v27i2.9.
上記で補正項,正則化と呼ばれる
sx2 を加えて考える方法は,ロシアの偉大な数学者チコノフの正則化法と呼ばれ,神秘的な力を有する。そこで,チコノフ正則化法の神秘力によって,ゼロ除算
b/0=0 を数の実体として認識したと述べた(再生核研究所声明154(2014.4.22)新しい世界,ゼロで割る,奇妙な世界,考え方)。
次回には,この結果の驚くべき事実などについて触れたい。
以下,次号